【天皇賞(春)回顧】ハナ差決着にみえた“名馬の証” クロワデュノールが父子制覇でGⅠ4勝目

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菊花賞を走っていないダービー馬の勝利
第173回天皇賞(春)はクロワデュノールが制し、GⅠ4勝目。2着ヴェルテンベルク、3着アドマイヤテラで決着した。
前年覇者ヘデントール、阪神大賞典覇者アドマイヤテラと三強を形成したこの一戦、クロワデュノールの距離経験が競馬ファンの意見の分かれ目だった。1984年以降、ダービー馬が天皇賞(春)を制したのは4例。シンボリルドルフ(三冠馬)、スペシャルウィーク(菊花賞2着)、ディープインパクト(三冠馬)、メイショウサムソン(菊花賞4着)といずれも菊花賞を走り、京都芝3000mを経験していた。
反対に菊花賞未出走のダービー馬はトウカイテイオー5着、キズナ4着など淀の2マイルにことごとく跳ね返されてきた。京都芝3200mはほかの長距離戦とは一線を画す。その最たる理由が3、4コーナーに待ち構える2度の丘越えにある。
スピードが乗った序盤、ラストスパートに向かう終盤と絶妙な位置にあり、それぞれ上手に乗り越えていかないと、最後の直線では伸びきれない。クロワデュノールは京都コースすら初出走。にもかかわらず完璧に2度の丘越えをクリアした。レースセンスの塊のような馬だ。
名馬は接戦を落とさない
1周目の丘はゆっくりと折り合いながら下り、2周目は上りで力まず、下りを利用してギアチェンジしながらトップスピードへの道をつくる。直線入り口で好位に並び、内回りとの合流点で先頭へ。あくまで好位から抜け出すいつものスタイルに徹した。
北村友一騎手は淀の2マイルに対し、クロワデュノールなら大丈夫だという自信があったようだ。普段着の騎乗はそれを物語る。
だがしかし、アドマイヤテラを振り切ったラスト200mはクロワデュノールにとっても未知なる領域だったようで、12.1と時計を要した。そこまでは11.7-11.7-11.6だったので、敢然と抜け出してから「ゴールはまだか」と長く感じたはずだ。
おまけに最後方から末脚一本にかけたヴェルテンベルクが飛んできた。無欲の挑戦者ほど恐ろしいものはない。結果はハナ差でクロワデュノール。この僅差の勝負を落とさないのも名馬の証だ。
天皇賞(春)でハナ差決着だったのは1984年以降、6度目。過去5回を制したのは1番人気もしくはGⅠ馬ばかり。
87年ミホシンザン(1番人気)、95年ライスシャワー(2勝目)、07年メイショウサムソン(クラシック二冠)、16年キタサンブラック(この時点では菊花賞馬)、20年フィエールマン(連覇達成)。1番人気かつGⅠ馬だったのはフィエールマンとクロワデュノールしかいない。
くどいようだが、クロワデュノールはこれを京都、3000m超いずれも未経験で決めた。地味なようだが、この事実はクロワデュノールを語る上で非常に重く、淀の2マイルはそれほど難しい。
優秀な種牡馬は必ず自身の競走成績とそん色ない後継馬を2、3頭残し、その血をつなげていくという。キタサンブラックはイクイノックスに続き、クロワデュノールを輩出した。
父子天皇賞(春)優勝はイクイノックスの天皇賞(秋)父子制覇とは別のニュアンスを帯びる。キタサンブラックの懐の深さを痛感させる。ブラックタイドの枝葉は一大勢力を築く弟ディープインパクト系にどこまで迫れるのか。未来が楽しみでならない。
後方一気が引き出したヴェルテンベルクの底力
2着ヴェルテンベルクは角度によっては勝っているかのように見えるほどの際どい勝負を演じてみせた。こちらも父はキタサンブラック。母の母マルカコマチはサンデーサイレンス系らしい切れ味の鋭さをもっていた。反面、後方一辺倒で勝ち味に遅く、乗り難しさもあった。
フレンチデピュティが入り、キタサンブラックを加え、持続力を補ってきたが、ヴェルテンベルクはやや不器用な面もあり、マルカコマチの血も感じる。最後方待機から直線にかけるという作戦はその血を引き出すには最適な作戦だったといえよう。中距離のスピード競馬より適度に時計を要する競馬がよさそうで、宝塚記念でも楽しめそうだ。
3着アドマイヤテラは前走が完璧すぎただけにその再現はどうかという向きもあった。実際、スタート直後のポジション争いで下がった分、最後にクロワデュノールとの物理的な差を生んでしまった。
上がり600mはクロワデュノール34.9に対し、こちらは34.7。隊列が決まる序盤が明暗をわけた。長距離戦ではポジションを押し上げようと途中で動けない。難しい競馬になってしまった感はある。
4着には牝馬のアクアヴァーナルが入った。戦歴通りのステイヤー。伸びる馬とそうでない馬がくっきり分かれたゴール前、この馬は着実に伸びてきた。かなりのスタミナの持ち主であり、その分、この先のレース選択が悩ましい。
5着ヘデントールは1周目の丘で行きたがり、うまくクリアできなかった。これが最後に響いた。とはいえ、2周目の丘での手応えは大敗を覚悟したが、それでも勝負を捨てず、伸びてきた。さすがは前年覇者。そのプライドは示した。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 世界への挑戦』(ガイドワークス)に寄稿。
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