【アイルランドT回顧】“特殊ラップ”の消耗戦で輝いたカムニャックの底力 2着ジョスランも負けて強し

ⒸSPAIA
毎日王冠とは違う特殊ラップ
秋の牝馬戦線の前哨戦アイルランドTはカムニャックが制し、重賞4勝目。2着ジョスラン、3着ラヴァンダで決着した。
秋開催2週目。芝は予想外に速く、傾向に変化がみられた。同じ芝1800mのGⅡ格である毎日王冠は、1000m通過59.8のスローペースも影響したが、4コーナー3、1、5番手の馬による前残り決着で、勝ちタイムは1:45.5だった。
一方で牝馬限定のGⅡアイルランドTはセキトバイーストが1頭で飛ばし1000m通過57.9と流れ、4コーナー8、6、11番手の馬による差し決着になった。勝ちタイムは1:44.4。毎日王冠より1.1も速かった。単純比較でハイレベルだったのはアイルランドTだ。
ほかの芝レースでも外から伸びる馬が目立っており、前日のサウジアラビアRCも外差しが決まった。開幕2週目でこれほど傾向が変わるのは珍しい。先行優位という前提で予想すると的中から遠ざかる。そんな3日間競馬になった。
ハイレベルな競馬に影響を与えたのは途中から先手をとったセキトバイーストだ。スタート直後はマイル戦でもハナに立てるクランフォードが逃げる形に持ち込んでいったが、セキトバイーストはそこをあえて主張していった。おそらくスローペースになる予感を察しての動きだろう。東京の切れ味勝負は分が悪い。
これも後ろにカムニャック、クイーンズウォーク、ラヴァンダの人気どころがいたからにほかならない。セキトバイーストの動きによって序盤600m34.3と速くなり、突っ込んで入ることになった。毎日王冠は同35.3であり、テンが1秒も速い。特殊なラップ構成だった。
底力をみせたカムニャック
その後、セキトバイーストはムキになってしまい、後ろを離していく。当然、このコースのハイペースについていく馬はいない。11.9-11.7-11.6とラップは推移し、セキトバイーストは先手をとってからも、ラップを落としにいかなかった。最後はバテて15着に沈んでしまったが、飛ばしたことで、レース全体を消耗戦に変えていった。
確かに速いのは1頭だけで、2番手以下はスローに近いといえなくもないが、先頭にいるのは重賞2勝馬、それもこの舞台の府中牝馬Sを昨年、今年と連覇した実力馬なので、後続もまったくノーマークで下がってくるのを待つわけにはいかない。
事実、2着ジョスランは外からセキトバイーストを捕まえようと早めに動いていった。この動きとセットで、最後の直線は底力勝負へと変わっていった。
ラスト600mは11.8-11.5-11.6とどの馬も伸びてくるような軽い競馬ではなく、底力がなければ対抗できない。そこで輝いたのがカムニャックだ。さすがオークス馬。春もマイルGⅡ、GⅠ連続2着とハイレベルな競馬で結果を残しており、底力勝負でポテンシャルを引き出された形になった。
16着だった秋華賞のように、レース前に消耗してしまう気性の激しい面もありつつも、厳しい流れを伸びてくる底力はある。かぶされない外枠も味方し、直線では先に抜け出したジョスランをめがけてまっすぐ伸びてきた。上がり600mは33.4。着差の半馬身差以上に差を感じさせた。
社台ファームが長くつなげてきたダンシングキイ一族。ダンスパートナー、ダンスインザダーク、ダンスインザムードがあらわれ、ダンスオールナイトからはダンスアミーガにつなげ、キープカルム、カムニャックが登場した。ここ数週間、日高で代々受け継がれる牝系が活躍する流れがあるが、このダンシングキイは社台ファームの40年近い歴史を語れる牝系であり、伝統牝系の活躍は続く。
ジョスランは価値ある2着
2着ジョスランは真っ先にセキトバイーストをつかまえようと仕掛けていった。負けて強しとはまさにこの競馬のことで、背後のカムニャックに狙われ、つかまってしまったのは致し方なし。3着ラヴァンダには2馬身差をつけており、このレベルでも十分通用する。
小倉牝馬Sも1:58.1と速い時計で勝利しており、高速決着も苦にしない。ただその分、スローの瞬発力勝負になると苦しい場面も出てくる。8着に敗れたヴィクトリアマイルはそこも影響した。一方で今回のように早めに勝負に出られれば、そんな流れも変えることができる。そういった意味でもこの2着は価値がある。
3着ラヴァンダはレースのスタイルがほぼ固まっている馬で、自分の力は確実に出してくる。あとは流れがハマるかどうか。今回は流れが向いたように見えるが、こちらは瞬発力勝負の上がり3ハロン競馬が得意なので、底力勝負だと少々しんどい。

《ライタープロフィール》
勝木 淳
競馬を主戦場とする文筆家。競馬系出版社勤務を経てフリーに。優駿エッセイ賞2016にて『築地と競馬と』でグランプリ受賞。主に競馬のWEBフリーペーパー&ブログ『ウマフリ』や競馬雑誌『優駿』(中央競馬ピーアール・センター)にて記事を執筆。Yahoo!ニュースオーサーを務める。『名馬コレクション 芦毛の怪物たち』(ガイドワークス)に寄稿。
《関連記事》
・【アイルランドT】結果/払戻
・【アイルランドT予想印まとめ】本命は三者三様 カムニャックは全員が対抗止まり
・【アイルランドT】AIは“複勝率70%”超えを信頼 買い目は3連複15点推奨【動画あり】